“鎌倉彫り”とは?800年の伝統を受け継ぐ下駄づくりの現場をプチレポート
日本を代表する伝統工芸品のひとつである鎌倉彫り。絶妙な陰影を作り出す彫りと、深みのある漆の色味、そして温もりを感じさせる木の優しい風合いが見事に調和した逸品です。
今回は、そんな鎌倉彫りの魅力を、下駄を制作する職人さんの現場の様子とともにご紹介します。
そもそも鎌倉彫りとは?
鎌倉彫とは、カツラやイチョウなどの木を用いて木地を成形し、文様を彫り、その上に漆を塗って仕上げた工芸品で、鎌倉市及びその周辺地域で作られたものを指します。
その起源は鎌倉時代にまでさかのぼり、中国・宋の堆朱(ついしゅ)や堆黒(ついこく)と呼ばれる漆塗りの工芸品をベースに、日本独自の文化や柄を取り入れて発展。当初は仏具がメインでしたが、次第に香を収納する香合や茶道具が作られるようになり、江戸時代には日用品にまで広がりました。
鎌倉彫り下駄制作の現場をプチレポート!
今回鎌倉彫り下駄の制作の様子を拝見させていただいたのは、静岡市内に工房を構える彫りの職人さんと塗りの職人さんの二名。
静岡は昔から木工の街だったそうで、ヤマハや河合の船・ピアノもその流れで盛んになったのだそう。下駄の塗りや彫りのほか、*シコロ貼りも行われていそうですが、現在では残っている職人さんは数少なくなってきています。
鎌倉彫りは、彫りと塗りを分業で行います。
まずは彫りの職人さんの下駄制作の様子。
御年87歳の職人さん。彫っているのは虎をあしらったメンズ用の下駄です。
工房には刃の長さや形が異なる数十本もの彫刻刀がずらり。木の質を見ながら道具を変え、微調整しながら彫っていくのだそう。
工程としては、まずは形、大きさ、用途にあわせて図案をつけ、小刀で切り込みを入れることで遠近感やボリュームなどを表現。そのあと、たち込んだ線の外側を彫刻刀で落として文様を浮き上がらせたり、文様部分肉付けしたりしてより表情豊かに仕上げていきます。
そして、文様以外の部分には鎌倉彫りの特徴でもある刀痕をつけます。刀の彫り跡をわざと残すことで、より味わい深いい仕上がりになるのです。
続いては塗りの様子を見ていきましょう。
こちらも78歳のベテラン職人さんです。
鎌倉彫りの刃目を塗っているシーン。刃目を活かしながら塗っていきます。
塗りの工程はひと塗りで出来上がり!ではなく、何度も塗っては磨き塗っては磨きを繰り返して、漆塗りならではの色合いとツヤ感を出していくのです。
彫りも塗りも職人ならではの勘と繊細さ、そして根気強さが必要とされる仕事で、出来上がった作品には、機械製造ではなしえない手仕事ならではのぬくもりと自然美が感じられます。
*シコロ貼り…鎧や兜に使われていたシコロ織りと呼ばれる技法で織られた紙布を、下駄の天に張り合わせた仕上げ方のこと
KIMONO MODERNオリジナルの鎌倉彫りの下駄
800年以上の伝統を受け継ぐ鎌倉彫りの職人さんも、作り手の高齢化に伴ってその技術は風前の灯火になりつつあるといいます。
厳密にいうと、「作家」として高級品や芸術作品的なものを作る職人さんはまだまだいらっしゃるそうですが、危機に瀕しているのは私たちが日常的に履くものとしての”鎌倉彫りの下駄”です。
失われつつある素晴らしい伝統技術を多くの人に知ってもらいたい。
そんな思いを込めてKIMONO MODERNでは、今回工房にお伺いさせていただいた二人の職人さんにご製作を依頼し、2022年初めてオリジナルデザインで鎌倉彫りの下駄をご用意いたしました。
まずはざっくりとしたデザインからスタートして微調整を重ね、最終的に出来上がったのが「すずらんと蔦と実と。」と「乱菊」の2種類です。
KIMONO MODERNのモノづくりの肝でもある“引き算の美学”を意識。モダンに見えるよう下駄の高さを高めにしてもらったり、下駄を脱いで左右揃えた時に一つの絵になるようにしてもらったりなど、シンプルでありながらもさり気なくオシャレに見せる仕掛けが満載です。
漆塗りなので、使えば使うほどツヤが増し、味わいが出てきます。
そんな経年による美しい変化を感じられるのも、伝統工芸品の醍醐味のひとつです。
時とともに失われ、いずれは美術館でしか見ることができなくなるかもしれない希少な鎌倉彫りの下駄。その技術を日常的に楽しむことができる今だからこそ、ぜひリアルに体感してみてはいかがでしょうか?
【参考資料】
・鎌倉市HP 鎌倉彫